それゆえ由子を我物とする欲望は表面に現れることがなく、従而由子が他人の妾となることは直接彼の苦痛とならない。
そして彼のゆがめられた欲望はまつたくその相貌を変化せしめられ、たとへばすでに破綻しつつある卓一との関係に更に完全な破綻を希むことによつて、その欲望の満足をとげやうとする。
いふまでもなく卓一との関係がすでに破綻しつつあつてその完全な破綻に甚だ可能性があるためでもあり、かつまた卓一と由子と自分との三人の関係のみの世界では、卓一と由子の破綻がともかくひとつの独専を彼に約束してゐるからにほかならない。