土地の上流の人々が主として出入するところであり、古来からの食堂や宴会室や倶楽部のほかに女の二三十人ゐる酒場があつたり舞踏場があつたりしても、エスパニヤ軒へ行くと言へば山の神も之を許し、人々も之を遊蕩とよばないやうな土地の習ひになつてゐた。
従而エスパニヤ軒の酒場といへば一般にいはゆる酒場と種類も品格も異るやうに言はれてゐるが、クレムリン宮殿や法王庁の内部にすら当然の疑惑と憶測の横行しやすい今日、田舎の話にしてからが聊か迂闊千万である。
六十才の田舎紳士が人前を怖れることなく奇声を発して女給を愛撫してゐるが、そのことが高級なる社交、ならびにその大精神になんの差しさはりがあるものぞと高説をなす人士があれば、私もまつたく同感であり、敢て異説をとなへやうとは思はない。