ところで先生、探偵では面目玉を踏みつぶし、不良少女に舐められて、いささかならず世を儚なんでゐる最中ではあり、家出だの道行だのといへば七八年来この先生とは親類づきあひの心安い間柄で専ら悪徳の講釈に憂身をやつしてゐる御仁だから、大いにてれて、その儀ばかりはと、ひらに辞退したのであつたが、食堂の親爺といふ稀代な人物、思ひ込んだら雷が鳴つても放さない守宮の生れ変りだから、狙ひをつけて食ひつかれたら、もはや万事休すである。
娘を一室へ呼び入れて、訊問致すことになつた。
訊問が、どうせ訊問にならないのは、先刻御察しの通りで、娘の奴め、先生道行と親類づきあひしてゐることを見抜いてゐるから、家出のあひだ男と一緒にゐたことを問はれぬ先に白状したが、それを両親に知られると困るから、先生の力でなんとか巧く捌いてくれとぬかす。