僕が退院する二日前、小林秀雄が見舞いに来てくれて、ゴッホは分裂病ではなく、テンカンじゃないのかと言いだした。
一般に精神病のお医者さん方がゴッホを分裂病だと云うのは、ヤスパースなどを読んで、その通り思いこんでおられるだけで、小林秀雄のようにゴッホに関する殆どあらゆる文献を読んでいるわけではない。
小林秀雄は十何年かの間ドストエフスキーについて殆どあらゆる文献をしらべ、今は又ゴッホ研究をやりだしているのであるが、はからずも、ドストエフスキーとゴッホの発病時の表現に、いちじるしい類似のあることを見出した由であった。