杉本重吉(当時四十五)その妻モト子(当時四十三)長男久七(当時二十一)長女スミ子(当時十八)の四人家族であるが、下男重吉、又の名は蛸の重吉とか蛸重といって、この町の奇人の一人であった。
重吉は、由之が武道教師をしていた中学での教え子であり、柔道の主将であったが、五年の中学生活を九年かかって卒業したという名題の石頭であった。
卒業間際にモト子との情事が発覚したが、この時、由之が石頭の教え子のために奔走し、無事学校も卒業させ、二人を結婚させて、朝鮮で武道教師をしている友人に当てゝ紹介状を持たせて海を渡らせたのである。