言語も視力も失ったこの怪人が、しきりに突き出して見せるのは、その残った左手であった。
取次にでた女中のスミ子(重吉の娘)が、これを物乞いとカン違いをしたのは当然であるが、あまりのシツコさに、起久子、由子、美津子らも現れ、やがて美津子が閃くように、左手を差出す意味をさとったのである。
安彦は応召の前夜、昭和十七年の日記帳を厳重に封じて、ひそかに美津子に托して行った。
言語も視力も失ったこの怪人が、しきりに突き出して見せるのは、その残った左手であった。
取次にでた女中のスミ子(重吉の娘)が、これを物乞いとカン違いをしたのは当然であるが、あまりのシツコさに、起久子、由子、美津子らも現れ、やがて美津子が閃くように、左手を差出す意味をさとったのである。
安彦は応召の前夜、昭和十七年の日記帳を厳重に封じて、ひそかに美津子に托して行った。