そうして物の真相は知らぬ内こそ知りたいものだが、いざ知ったとなると、かえって知らぬが仏ですましていた昔が羨ましくって、今の自分を後悔する場合も少なくはない、私の結論などもあるいはそれに似たものかも知れませんと苦笑して壇を退ぞいた。
僕はその時市蔵の事を思い出して、こういう苦い真理を承わらなければならない我々日本人も随分気の毒なものだが、彼のようにたった一人の秘密を、攫もうとしては恐れ、恐れてはまた攫もうとする青年は一層見惨に違あるまいと考えながら、腹の中で暗に同情の涙を彼のために濺いだ。
これは単に僕の一族内の事で、君とは全く利害の交渉を有たない話だから、君が市蔵のためにせっかく心配してくれた親切に対する前からの行がかりさえなければ、打ち明けないはずだったが、実を云うと、市蔵の太陽は彼の生れた日からすでに曇っているのである。