顧みると、彼が学校を出て、始めて実際の世の中に接触して見たいと志ざしてから今日までの経歴は、単に人の話をそこここと聞き廻って歩いただけである。
耳から知識なり感情なりを伝えられなかった場合は、小川町の停留所で洋杖を大事そうに突いて、電車から下りる霜降の外套を着た男が若い女といっしょに洋食屋に這入る後を跟けたくらいのものである。
それも今になって記憶の台に載せて眺めると、ほとんど冒険とも探検とも名づけようのない児戯であった。
顧みると、彼が学校を出て、始めて実際の世の中に接触して見たいと志ざしてから今日までの経歴は、単に人の話をそこここと聞き廻って歩いただけである。
耳から知識なり感情なりを伝えられなかった場合は、小川町の停留所で洋杖を大事そうに突いて、電車から下りる霜降の外套を着た男が若い女といっしょに洋食屋に這入る後を跟けたくらいのものである。
それも今になって記憶の台に載せて眺めると、ほとんど冒険とも探検とも名づけようのない児戯であった。