たとえば、警視総監は、女主人公を突ッ放して笑遁の術を用いるけれども、女主人公は、大きな荷物を両手に二つも持ったことがないから、という理由で、屋根から荷物を投げ渡して脱走しようという少女に、クルリと背を向けてしまうのである。
この女主人公の態度は、少女から見れば、警視総監の笑遁の術よりも、冷めたく、残酷な仕打に感ぜられ、突き放されたであろう。
大きな荷物を両手に二つも持ったことがないという理窟は、警視総監の笑遁の術にも同じ理窟がある筈で、この女主人公は自分の理窟は分るが、人の理窟が分らないだけの話なのである。