先生はこういう風にそれほど故郷を慕う様子もなく、あながち日本を嫌う気色もなく、自分の性格とは容れにくいほどに矛盾な乱雑な空虚にして安っぽいいわゆる新時代の世態が、周囲の過渡層の底からしだいしだいに浮き上って、自分をその中心に陥落せしめねばやまぬ勢を得つつ進むのを、日ごと眼前に目撃しながら、それを別世界に起る風馬牛の現象のごとくよそに見て、極めて落ちついた十八年を吾邦で過ごされた。
先生の生活はそっと煤煙の巷に棄てられた希臘の彫刻に血が通い出したようなものである。
雑鬧の中に己れを動かしていかにも静かである。