もとより女学生時代の由起しげ子はトマサンの往時については空想的にしか知るよしもなく、偶然巴里で一夜顔を合わせた程度で、トマサンの為人を理解できる筈はない。
しかし、「トマサンの一生」に於て、彼女が悪役のイケニエにナマで供せられている如く、彼女の小説中に於て、彼女の姉夫婦が超特別の善人待遇であるに反して、トマサンの悪役待遇はナマの感情をムキダシに、やはり血のイケニエではある。
二ツの作中のトマサンにたった一つの共通しているところは、離婚はトマサンの意志ではなくて、トマサンはその母や姉の意にしたがったらしいということ。