私はトマサンなる遊び好きの旦那が、自分の意志でもなく肉親の意にしたがって愛する女房を離絶し、その後は悶々として、一生女房の面影を忘れ得なかったなどというのは、てんで信用ができないのである。
トマサン自身がそういう甘さを愛して、その伝説の中に自ら籠城したのかも知れないが、人間というものは、本人が自らそう思いこむにしても、そう思いこまない半面の人生も併存し、決してそんなに甘い人間が実在するものではない。
かりにこれが事実とすれば、この殺人事件の犯人は、本人の意志でもないのに恋女房を離婚させた肉親に最大の罪ありと断ずべく、次にそれに同意したトマサン自身が共犯で、同罪也と云わざるを得なかろう。