即ち被害者は死にもの狂いの力で敵の毛をむしり着衣をむしり肉をむしり肉にかみつき、当然犯人に相当の傷を与えた上に手に何か握りしめているとか、あたりに何かが落ちているとかしそうなもの、しかるに何の抵抗の跡もなく、人の毛も犬の毛も、あたりに一本落ちているのを見かけることもできません。
この無抵抗の状態が何によって起るかと云えば、メスメリズム、即ちかのヤミヨセに於て信徒が夢見心持に踊り狂い怖れ伏すのや、狼に食われたと思うのや、すべてこれをメスメリズムの現象と申すのです。
したがってこの犯人はメスメリズムを知らなければなりませんが、かの月田夫婦の如く甚しく不和の夫婦仲でメスメリズムをかけるのは不可能なこと、即ちメスメリズムの術者たる犯人は当然教団に関係ありと見なければなりません。