恐らく鈍感な常友は気がつかなかったであろうが、人の顔色をよむのが商売のコツでもある志道軒には、こんな恐しいことはむしろ気がつかずにいたいもの、いろいろと人の顔色を見ていたが、こんなムザンな顔を見たのは生れてはじめてのことだ。
左近が札束を二つにわけて常友と志道軒に渡した時の幸平の顔というものは、突然あらゆる感情が無数の鬼になって一時に顔の下からとび起きて毛穴から顔をだして揃って大きな口をあけて首をふりまわしたようだった。
幸平の目だの口だの鼻だのへ誰かが棒をさしこんでグリグリまわしているのに、その棒を突ッかえして飛びだしてくる無数の小鬼がいるのだ。