兄の正司も三十となり、なんとかして嫁をもらって一戸をたて、自分の店も持ちたいと思うが、最初の主家が没落したために、その後の奉公は次々とうまくいかず、まだ住み込みの平職人で、間借りして独立の生計をたてるのもオボツカなく、店をひらくどころか嫁をもらう資力すらも見込みがない有様であった。
そのために元々陰鬱な性格が益々暗くひねくれて無口となり動作が重い。
二十一二の若造がいっぱし高給をもらって面白おかしく暮しているのに、彼は女中や小僧どもにもナマズなどと渾名でよばれて、ちょッと目をむくが、どうすることもできない。