なんでもかでも自分たちは善良で、人をだますことはないと信じている。
そのくせ、農村に於ける訴訟事件といえば全国大概似たようなもので、親友とか縁者から田畑とか金をかりて心安だてに証文を渡さなかったのをよいことに、借りた覚えはないといって返却せずもともと自分の物だと主張するようになったり、隣りの畑の境界の垣を一寸二寸ずつ動かして目に余るひろげ方をして訴訟になるという類いで、親友でも隣人でも隙さえあれば裏切る。
証文とか垣根とか具体的なものが何より必要なのは農村なので、実際はこれほど物質化されている精神はなく、実にただもう徹頭徹尾己れの損得観念だけだ。