もとより落ちて命のあろう筈はないが、せめて屍体でもなんとかしたいと思っても、この谷の深さではどうしてよいやら、多勢の郎党どもうろうろ相談していると、谷底の方からほのかに人の呼び声がするようだ。
はてな、殿は生きておられるのじゃないか、それ呼べ、というので呼んでみると、谷底からたしかに返事がきこえてきて、旅籠に縄を長くつけて下してよこせと言う。
さては生きておられる、それ旅籠を下して差上げろと各自縄紐を出しあって長い縄をつくり籠を下してゆくと、もうじき縄が足りなくなるというところで留って動かなくなったから、やれやれどうやら間に合ったらしい、下から合図がないものかと首を長くして待つうちに、下から声がとどいて引上げろ、という。