夢ではないかと悦んで思わず快心の笑みを洩して居りますと村端れの一軒に突然物の破ける音がして、やがて荒れ狂う木枯にふわりと雨戸が一枚倒れるのを見ましたが、次の瞬間には真っ黒な塊が弾丸のように転げ出て、僕の方へまっしぐらに駈け寄ってくるのです。
近づくのをよく見ますと、いやに僕によく似た――背が高く、毛髪は茫々とし、顔色は蒼白で、駈けてきた所為でもありましょうが、何となく疲労の色が額に漂っていて、妙チキリンなピジャマを着ているんです。
一体こいつほんとに気狂いかしら、と無論僕はそう思いついたのですが、広い武蔵野の真ん中で紅々とただ二人照し出されてみますと、この怪物がばかに親密に見えるものですから、君、君、と僕は通りすぎるこの怪物を呼びとめました。