夏も終りに近い荒天の日で、町にいても海鳴りのなり続く暗澹たる黄昏時のことであったが、突然母が私を呼んで、貝が食べたいから海へ行ってとって来てくれと命じた、或いはからかったのだ。
からかい半分の気味が癪で、そんならいっそほんとに貝をとって来て顔の前に投げつけてやろうと私は憤って海へ行った。
暗い荒れた海、人のいない単調な浜、降りだしそうな低い空や暮れかかる薄明の中にふと気がついて、お天気のいい白昼の海ですら時々妖怪じみた恐怖を覚える臆病者の私は、一時はたしかに悲しかったが、やがて激しい憤りから殆んど恐怖も知らなかった。