たった三四尺の流れを飛ぶのに全然足が上らず、引きずるようにバチャンと水中に落ちる驚きと絶望。
自由自在に飛ぶ筈のボールが人の手を借りて投げるような不自由さで十米とどかぬ時の訝しさは、ただ廃人ということのみを考えさせ、絶望のために益〻病状は悪化した。
あるとき市村座(今はもうなくなったが)へ芝居を見に行き、ここは靴を脱がなければならない小屋で、下足番が靴をぬぎなさいと言い、僕もそれをハッキリ耳にとめてここは靴をぬがなければイケないのだと思い、又、それに反対する気持は決して持っていないのに、何か生理的、本能的とでも言う以外に法のない力で、僕は靴のまま上って行こうとするのである。