僕のそぶりから家族の冷めたさをさとるにつけて、彼の心は一そう激しく母の愛を祈りはじめる。
はては、僕が例の如く昨日も用で君の家へ行けなかったと嘘をつくたびに、不器用にヘタな嘘をつきたもうな、という顔をし、君はまだ人生の深所が分らぬから母の表面の表現に瞞著されているが、母は自分を愛している、ただ四囲の情勢からその表現が出来ないだけだ、という意味のことをそれとなくほのめかそうとする。
辰夫の心事の当然そうあるべきことを僕も同情をもって見ていたから、直接そのことに腹は立たないのだけれども、話題のつきはてた毎日の憂欝、破裂しそうで、一日、遂に僕は怒り狂い、君は実に下らぬ妄想にとりすがり、冷めたさに徹する術を知らぬ哀れな男だ。