しかしながら、碁会所の老人のような人に一生の設計が戦争でフイになった場合には、その混乱やヤケは暗く救いのないものであろうが、川崎君が怖れている中風に本当になった場合には、そう暗くはないだろう。
彼は己の最も怖れていることに出会わしても平凡に受けいれて順応できるだけの背骨はできているであろうから。
カマボコ小屋の川崎君に比べれば、徳川夢声老の設計は市井人のマトモな生活に即してはいるが、しかし、半生大酒をのみ、時には催眠薬のガブのみの曲芸もやらかすというような、人生の希望というようなものと相当壮烈に、また、徹底的にイタチゴッコをやらかした人は、その心構えの背骨も余人に比して相当シッカリした仁と目すべきであろう。