後ろから見た木部は葉子には取り所のない平凡な気の弱い精力の足りない男に過ぎなかつた。
筆一本握ることもせず朝から晩まで葉子に膠着し、感傷的な癖に恐ろしい我儘で、今日々々の生活にさへ事欠きながら、万事を葉子の肩に投げかけて、それが当然な事ででもあるやうな、鈍感なお坊ちやん染みた生活のしかたが、葉子の鋭い神経をいら/\させ出した。
……結婚前までは葉子の方から迫つて見たに拘らず、崇高と見えるまでに極端な潔癖家だつた彼であつたのに、思ひもかけぬ貪婪な陋劣な情慾の持主で、而かもその情慾を貧弱な体質で表はさうとするのに出喰はすと……」