況んや肉体を始めから醜なりと断定し、その過った断定にとらわれて、そこから逃げ出し目を掩うべく悩みつづける、そういう空虚な悩み方は宗教家でさえ心ある人々は不当とする。
正宗氏の人生は成程悩みつづけた人生であるかも知れぬが、まことは悩むべきことに悩まなかった、「童貞主義者」流の悩みにすぎない。
彼の持ち前の峻烈な自己批判によって、その童貞主義者流の醜怪さが多少救われていると思わしめるほどの曲りくねった筆力はあるにしても、所詮は、貧弱な肉体の情慾が醜く猛獣の性慾が壮観である底の架空なパラドックスを弄してひそかに慰めるに過ぎなかったのだ。