簡略にして要をつくしているというなら簡略も要のぶんだけの働きをしていることになるだろうが、この作品の簡略な筆触は一向人物を活写せず、少しく濃厚な筆力を用いたなら、これ以上に人物を活写せずして活写以上の味わいを出しているなぞいう、空想的な文章論は意味をなさない。
活写せざるよりは活写する方がいいに極っている。
この作品に記録されているような種々な事柄が特別深い人生であるわけもなく、ましていい年をした主人公が、赤い顔をして這入ってきた娘のような情人に酒を飲んできたのだろうと、人々のいる面前であるというのに思わず色をなして詰ったりする、そういう告白的な飾らざる態度が特別深い人生のわけでもないだろう。