ところが今年の「紀元」新年号に書いた「山茶花の庭」で、これも惚れないうちから諦めていた一人の娘との別れに自作の白粉を餞別しようと思って、自分ではその壺へ「長相思、思ひ何ぞ長き――」というような詩をひとつ気取って焼きこんでやろうと思っているうちに、ついなんとなく焼きこんだのが「古井戸や蚊に飛ぶ魚の音暗し」という蕪村の句である。
その壺を見た友人達が、壺をひねくりながら、どうもこの壺は露骨で厭味ですねと会話をしているあたり、全くやりきれない暗い鬼気に打たれざるを得ない。
前作の首をくくる時よりは彼の悲願がずっと深められた不気味なものに進んでいるのだ。