尤も私は自分自身のことを決して直接描こうとしない男であるが、それにも拘らず、私は作品を書くことによって、漸くそこに描かれた事実が私自身の生活として固定し、惑いは形態をとったのだという感が強いのである。
私にとって、描かれなかった私の毎日毎日のホントの生活は、結局生活ではないのかも知れない。
這般の理窟は一々鮮明に色揚げしてみても無意味だと思うのでやめるが、とにかく私は、私自身ホントに経験したままを直接描いたことは一度もないし、これからもないだろうと考えているが、それにも拘らず私は作品を描いてのみ自分の姿や生活を見出していることは嘘でない。