龍然はとりわけて才のある男でもなく、一見さう見える通り、実際もごく平凡な好人物であるやうにしか考へられなかつた。
取柄といへば、意地の悪いところをまるで持たないことと、田舎者じみてゐるくせに、都会的な感覚なり見解なりを、平凡ではあるがしかし本質的に持ち合せてゐたことだつた。
龍然は父母もなく妻もない一人者で、黒谷村の橄欖寺に若い住職であつたが、凡太がふと彼を思ひ出した瞬間には、まだ一度も見た筈のない龍然の法衣を纏ふた姿が、何等の不思議さも滑稽味もなく歴々と其処へ立ち現れた程、本来坊主くさい男だつた。