人の気配のさらに無い山路に尨大な孤独を噛みしめながら、谷風に送られて縹渺と喘ぐことを、凡太はむしろ好んでゐた。
それは苦しいには違ひない、疲労困憊の挙句、えねるぎいといふものを硬質のものを胎内に感じ当てることが出来なくて、汗ばかりべとべとと、まるで身体全体が滴れてゆく粘液自体であるやうに思はれ、仰ぐと、たまらない明るさばかりがカンカン張り詰めてゐて、眩暈がくるくる舞ひ落ちながら、逞しい空虚と太々とした山の心が一度にぐつと暗闇の幕を開く。
山一面に蝉の音がぢいーと冴えて、世界中がただそれだけであるやうに感じられてしまふ。