その夜も賭博があつて、和尚は焦燥を殺してゐたが、夜が白んで一同全く立去つてしまふと大いに満足して庫裏へ出掛けて行つた。
さて、がたがたと鳴る重い戸棚をやうやくに開けて、ぼやけた雪洞をふと差し入れて見たところが、棚の片隅にぴつたりと身を寄せて、まるまるとした茹蛸は大変まぢめな顔をして自分の足をもぐもぐ喰べてゐる最中であつた。
蛸は真面目であつたから、暫くの後やうやく燈りを受けてゐることに気づいて、ひどく恥ぢらつて赤らみながら顔を背けてむつとしたが、和尚は喫驚してモヂモヂと立ち去ることを忘れてゐたものだから、蛸はぷんと拗て軽蔑を顔に顕はし、食へ、といふやうに一本の見事な足を和尚の鼻先へぬつと突き延した。