ショパンはいい、ショパンの音楽は実に素敵だと夢を追ふやうに慌ただしく知人達に吹聴しながらショパンの演奏される日を待ちかねて音楽会場へ殺到するのだが、さて腰を下してぢつとしてゐると幕も上らぬ頃から又してものべつ幕なしにうんざりと退屈しきつて、演奏の終る時までやたらに別のことばかり考へてしまふ。
興奮することを知らない男かと言へば、それは断じてさうでない、ただ、大いに激昂して叫喚乱舞に耽溺してゐる最中に、興奮してゐることそれに就て波のやうな退屈を感得し、落胆してしまふのであつた。
由良の肢体はだらしなく床板の上に寝そべつてゐたが、凡太の丹誠によるほのかな燈明のおかげで、幸ひそれは人魚のやうに可憐に縹渺として童話風な恋情をそそつた。