橄欖寺の裏手から墓地を抜けると、杉並木の嶮しい間道がものの四五丁もして、やがて鬱蒼と山毛欅の林に囲まれた金比羅大明神へ続くのであつた。
歩いて行く先々にぷつんと杜切れる虫の音は、その突然の空虚で凡太の心をおびやかして、その激しい無音状態がむしろうるさく堪えがたい饒舌に思はれてくる、なぜかと言へば自分自身の精神が湧く波の如く饒舌なものになりはぢめるから。
零れ落ちる月明を頼りに、やうやく山毛欅のこんもりとした金比羅山の麓まで辿りつくと、それらしい燈火は何一つとして洩れて来なかつたが、ごやごやした人群の喚声が、葉越に近くききとれた。