このとき、しかし凡太の浸つてゐた静かな雰囲気は、さう長くは続かなかつた。
――暗い群衆の中頃から一つの頭がゆらゆらと揺れて出て、由良の背中を追ふて来たが、「姐さん、一寸お願ひが……、」そんな低い声を耳にしたまま、凡太はしかし一人五六歩ばかりなほ前方へ歩きすぎて静かに振り向いた。
それは、角帯に頭を商人風に当つた、一見どこやらの番頭といふ風態の小男であつた。
このとき、しかし凡太の浸つてゐた静かな雰囲気は、さう長くは続かなかつた。
――暗い群衆の中頃から一つの頭がゆらゆらと揺れて出て、由良の背中を追ふて来たが、「姐さん、一寸お願ひが……、」そんな低い声を耳にしたまま、凡太はしかし一人五六歩ばかりなほ前方へ歩きすぎて静かに振り向いた。
それは、角帯に頭を商人風に当つた、一見どこやらの番頭といふ風態の小男であつた。