凡太はひどく狼狽してそそくさ会釈を返したが、気まづくなつたので、一人ぽくぽくと又一度かなり大きい円陣を、時々立ち止つては中の踊りを覗き込みながら歩いた。
それから、思ひ切つて金比羅山を振り棄てると、いま登つてきた坂道をすたすたと黒い黒い塊の中へ速足で下りはぢめたが、自然の加速度で猛烈な速力となり麓までは夢のうちに降りたまま、麓でも止まることが出来ずに次の坂道へ十歩ほど余勢で駈けてほつと止つた。
凡太は其処から、何の気もなく今駈け降りた山を振り仰いだが、もはや群衆の喚声もさだかではなかつたし、燈火も無論洩れ落ちては来ない、ただひたひたと流れるやうな哀愁が、深い一種の気分となつて彼の胎内を隈なく占領してゐた。