老婆と女中は驚いて、「旦那が先客でありますぞい、おとまりなさいまし」とすすめたが、決心止みがたいこと磐石の及ばざる面影を見出したので、「又だうぞ」と言ひながら奥から提灯を持ち出してきて無理に凡太に持たせた。
家並の深く睡りついた街道にさて零れ落ちて一歩踏みしめてみるに、意外に泥酔が劇しくて殆んど前進にさへ困難を感じる程だつたので、手にした提灯のうるささに到つては救ひを絶叫してわつと泣き出したいばかりだつた。
やり切れなくなつて振り向いてみると、幸ひ老婆はまだ戸口に佇んでこちらを見てゐたから、凡太はほつとして提灯を道の中央へ置き棄てたまま、一目散に逃走を開始した。