やり切れなくなつて振り向いてみると、幸ひ老婆はまだ戸口に佇んでこちらを見てゐたから、凡太はほつとして提灯を道の中央へ置き棄てたまま、一目散に逃走を開始した。
睡つた街道の路幅一杯を舞台にして鍵々に縫ひ転がりながら、時々立ち止つては一息入れて遂ひに黒谷村の西端れまで来かかると、死んだ四囲の中に、不思議とまだ大勢の人達が路の中央に群れてゐて、それは隣村から踊りに来た若者たちがトラックに満載されて引き上げるところであつた。
凡太は狂喜して駈け寄り、「僕も乗せて呉れたまへ」と提議したが、鉢巻姿の若衆は「お主は酔つておいでだから、それはなりませんぜの」と押し止めておいて、臭いガソリンの香を落したまま闇にすつぽり消えてしまつた。