凡太はううんううんと痛快な苦悶の声を闇に高く張りあげながら、その場一面に一時間近くのたうち廻つてゐたが、やうやくいささか我に帰つて、再び険阻な坂道を転落しながら橄欖寺の離れへ安着することが出来た。
帰着してみると、当然暗闇であるべき筈の離れには一面にありありと燈りの白さが映えてゐて、流石に凡太の泥酔した神経にもこれはおかしいと思はれたが、しかし見廻すにただ白々と其処に広さがあるばかり、人影はたしかに無い、いや、在つた、机の上に豪然と安坐して、一房のバナナが部屋一杯の蕭条とした明るさを睥睨してゐた。
言ふまでもなく由良の仕業に相違あるまい、凡太は堅く腕を組んで、暫くぢつとバナナの不敵な面魂を睨んでゐたが、腕をほぐすとゐざり寄つて、またたくうちに一つ残さず平らげてしまつた。