いはば自分は死の中に生き続けてゐるやうなもので、結局生命にひけめを感じながら、生きてゐる限りは存在に敗北しつづけてゐるやうなものだ……」と、その男は結局これと同じ内容のことを種々な様式によつて常日頃龍然に述懐してゐたが、時々は興奮して、ひと思ひに左翼へ走つて自分の生命力を爆砕したいなぞと猛り立つたりした、そんな淋しい男だつたさうである。
その男は、ほかに親しい友達が無かつたのであらう、死に当つて龍然にも遺書を残してゐた。
そこには、長い間の友誼を深謝す、と、ただそれだけの意味のことが数行にわたつて簡単に述べられてあるだけのことであつたが、その遺書は龍然の手に渡る以前に、すでに家族の手によつて開封されてゐた。