その男は、ほかに親しい友達が無かつたのであらう、死に当つて龍然にも遺書を残してゐた。
そこには、長い間の友誼を深謝す、と、ただそれだけの意味のことが数行にわたつて簡単に述べられてあるだけのことであつたが、その遺書は龍然の手に渡る以前に、すでに家族の手によつて開封されてゐた。
勿論それだけのことならば、龍然のことであるから立腹する筈はなかつたであらう、不幸にして、この一家が死者に対する待遇は、恰も唾棄すべき不孝者を遇するが如き不潔な冷酷さを漂はしてゐたために、無論それは体面を重んずる豪家として詮方ない次第でもあらうけれど、龍然は友人であるだけ甚だ気に入らなかつた。