「――実際大きな建物といふ奴は不思議な迫力を持つものでね。
僕なんぞもこのガランとした寺にぢつと坐つてゐると、その男と同じやうな漠然とした不安を、やはりしみじみ思ひ当ることが時々あるやうだね。
単に建物だとかその暗い壁だとか、そんな物に変にがつちりした存在を感じて敗北を噛みしめるばかりではない、自分が現に存在し、又寺の一隅に坐つてゐることに対して無意味を痛感し、痛感するばかりでなく、そのことがすでに又無意味に思はれる程何かがつかりした倦怠を感じ、それと一緒に自分の存在がいつぺんに信じられなくなつてくる。