勿論それは、相手が県内でも有数な勢力家であるために、針小棒大に誣告して司直の手を煩はしたことかも知れない。
しかしとにかく、厳めしい佩剣の音が翌日山門を潜つたのは事実で、それは村の駐在巡査が一人の高等係を案内して寺を訪れたのであつた。
高等係はしかし案外物の分つた男とみえて、田舎なまりの割合に温和な口調で、無論相手が相手のことで物の分らない富豪のことだから、何かの反感で無理に口実をつけたのであらうけれども、その方面には弱い警官のことであるから余儀なく義務上一応お訪ねしただけの話で、決して貴僧に疑ひをかけてゐるわけではないが……などと、くどくど長く述べ立ててゐた。