其の後、もう来ないのかと思つてゐた女は、相変らず毎夜龍然を訪れて来た。
どういふ変化があるだらうと聴耳をたててゐても、別に変つたこともない、離れにぢつと瞑目して机に凭れて頬杖をついてゐると、すぐ目の先にある小さな古沼、それを越してすぐさま丘の上にある墓地、その又上にひつそりとしてゐる山の腹、都合三段の静寂な気配がそれぞれのニュアンスを持つて、もうすつかり闌けてしまつた初秋の香りを運んだ。
なぜだか、身体がやはり一つの気配となつて朦朧とさまよつてゐるやうな、爽やかではあるが一種ぢつとりと落ちついた重い侘びしさが、物体に障碍されることなく一面に流れ漂ふてゐた。