それは、昼の明るさが尚寂寥に堪えがたくて、ひたすら死滅へ急ぐもののやうにしか考へられぬ蝉の音の慌ただしさや、已にいそがわしく遠い空に走り初めた幾流れもの雲や、そしてぽつかりと空洞に落ちたこの明るさ――ひとまづこれで、ぱつたりと杜絶する生活力の断末魔が山といふ山に、路に、藁屋根に、目に泌みるリズムとなつて流れてゐる。
女衒もすでに黒谷村を去つて、沈滞した村の軒からは、何か呟く呪ひの声が洩れてくるもののやうに感ぜられた。
そして龍然は、物置から埃まみれな草履を一つ探し出して、下駄とちんばにこれを突つかけながら、黒い法衣を秋風にさらし、流れはぢめた雲の慌ただしさに狂燥を感ずるものの如く、村の法用に山門をいそがしく往来してゐた。