もう夏が来ましたから――さうです、もう夏が来てしまつた――いつの間に用意して来たのですか、全然私の気付かなかつたことですが、緋奈子はトランクの底から私のと彼の女のと二着の海水着を取り出して、「あたし一人で散歩してくるわよ、ね」と言ひ残して、あの窓の下のなだらかな銀色の上で、村の小供達と一日遊んで暮すのです。
水へ這入るのはごく稀なことで、大方は小供達にボクシングの型を教へたり、輪になつて踊つたり、跳躍や競走の試合をしたりさせたりしてゐるのです。
窓下の砂浜に点と化したそれらの人影は八方へ散乱し、又ある時は、遠浅の沖へ沖へと進んでゆく喚声が遠近を明瞭に暗示しながら海風に送られてこの窓へ鳴りわたつて来たり……私は窓から頸を出して、ひねもすそれを眺めてゐるのです。