たとへば「死」に、虹ほども豊富な色彩と休息が予約されるとしてからが、現実「生きてゐる」うへは、この現実の安逸を賭けて投機を試みる心になりませんのです。
――そして、ありていに恥を言へば、この海風の通る部屋の中では、私は一人ぼつちの真昼を迎へると、部屋の片隅に抹殺し去られた私の海水着を秘かに取り出して、臆面もなく之を着込んでゐるのですが……流石にしかし、それを発見されないやうに、頸ばかり窓から突き延して、広い海原と浜に零れた人影のうごきを眺めてゐるのです。
緋奈子は遊びに夢中ですから、私の窓を振り仰いで、其処に私の頸だけを見付け出すことは、一日の中にも極く稀な気紛れによることですが、しかしとにかく、一日に一度顔が会ふと、私はそれをキッカケにヒョイと頸を引つ込めて、その時ばつたり倒れた場所でその一日を暮すのです。