その意味では、今僕は「死も怖れない」と言ふことが出来やう、そして其の意味で言へば、僕は今、僕の切札を変へてもよかつた、「僕は死にたくない、それでも僕は、死も怖くない……」
昔は僕は、午後の日和に、見送りの人波に紛れてコソコソと船に乗り込んだ、僕は豪奢な社交に酔つて、部屋の片隅に佇んだり、ある時高い人気ない場所に、遠く海へ撒かれてゆく僕の潤んだ哀愁を眺めたりした。
僕は今、豪然として船に乗り込む、サロンの丁度中程の、僕は豪華な肱掛椅子に腰を埋めて、部屋の主人であるやうな傲慢無礼な様をしながら、銅羅の鳴るまで身動もしない。