それが若し共産主義の旗じるしでさへ無かつたなら、僕は円タクの運転手に僕の存在を知らしめるため、赤色の危険信号旗を頭上高らかに担つて歩いたに相違ない。
ガランとしてひどく取り澄ました教室にたつた一人で待つてゐたら、始業の鐘も鳴り終つて已にあたりもシンと静まり返つてから、突然けたたましい跫音が教室の扉へ向けて一目散に廊下を走つて来た。
扉に殺到したかと思ふと急に忙しく把手をガチンと廻したので、誰か風みたいに飛び込んで来る奴があるのかと思つたらさうでもない、顔の半分すら教室の中へ現はさないうちに、忽ち扉を再び閉ぢて今来た廊下を全速力で戻りはぢめた。