家の裏手には一面に、はや年を経た孟宗のひつそりとした林が深い。
朝朝の陽射しが水泡のやうにキラキラと濡れて、深い奥にもまばらに零れ、葉が落ちて濡れてふやけた篁の土肌から、いきれた臭気がムウンと顔に噎せながら其処ら一面に澱んでゐる――その篁が曲者であつた。
郊外の(一足踏み出せば、もはや涯も無い武蔵野の田園が展けてゐる――)この傾いた破れ長屋に居候を始めてから丁度二週間にもなるのだが、硝子窓を炒るやうな鋭く冴えた朝朝の太陽に蹴散らかされて、樅原駄夫が濁つた目覚めを迎へると、それが晴れた日の合唱ででもあるやうに、裏の篁から夫婦喧嘩のざわめきが、この上もなく朗らかに聴きとれてくる。