郊外の(一足踏み出せば、もはや涯も無い武蔵野の田園が展けてゐる――)この傾いた破れ長屋に居候を始めてから丁度二週間にもなるのだが、硝子窓を炒るやうな鋭く冴えた朝朝の太陽に蹴散らかされて、樅原駄夫が濁つた目覚めを迎へると、それが晴れた日の合唱ででもあるやうに、裏の篁から夫婦喧嘩のざわめきが、この上もなく朗らかに聴きとれてくる。
駄夫はアアアンと変にショボショボ欠伸をして、間の抜けた朝の陽気にてれ乍ら、まだ散漫な神経を搾る様に寄せ集めて、篁の高い物声を捉へるために二つの耳をジインと澄ませる。
寝床から其れのみ擡げられた一つの首が、明るい朝の光線の中へ花瓶のやうにユラユラと浮び上つて揺らめいてゐる、其れが又晴れたる朝の序曲でもあつた。