一番貴重な物までが(――それはあの悪の華の詩人に由つて――朦朧と浮く不思議なる雲の類と歌はれてゐるが)得体の知れない宿命に残酷なまで飜弄されるもののやうにも思はれる。
思へば何か感慨の心に騒ぐ気配もし、苦い胃液の鋭く喉に込みあげてくる思ひもする――そんな気持もするにはするが、それは又唯それだけの当然な話で――ウツラウツラと寝床に伏して流れ込む朝の光を舐めてゐると、何事もそれは結局それだけのことで、古今東西一として驚愕に価する物もない、さういふ虚しい肯定のみが別に確たる根拠もなく唯ひしひしと煙のやうに漂うてくる、しづ心なく花の散るらむ――なぞと言へば余り莫迦げた長閑さすぎると思はれるかも知れないが、何んだかヂッと瞑目して明るい日向に項垂れてゐると、胃嚢の中にヒソヒソと頻りに花の降る音が遠く遥かに続いてゐる。
時として、何故とも知らずホッと洩らした溜息の引き去るあとに耳を澄ますと、朝も闌けた篁の懶い沈黙から、筍の幽かに幽かに太る気配が聴かれたやうに思はれて了ふ。